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いらっしゃいませ~!
最近は創作活動ばっかりでTWサボり気味ですが、生ぬる~く見守ってやってくださいヽ(´ー`)ノ
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勢いで革命の天使より先に完成させてしまったベレハク。
やたら長い上にちょっと痛い描写があります、ご注意を~。
HERO
日も暮れようとしている頃。ある用事で師匠の家に行った帰り、ふと立ち寄った場所があった。
海の谷――ハクと俺が幼い頃によく遊んでいた場所だ。どの季節にも美しい景色を見せてくれるから、と言えばロマンチックだが、残念ながらそうではなく、単に水遊びに最適というだけだった。景色の美しさに気付いたのは、ここが遊び場でなくなってしばらく経ってからのことだ。
そしてここに来ると、ある事件を思い出す――忘れもしない5年前の出来事。師匠に初めて与えられた銃を持って、ハクに自慢しようとここに来た時のことだった。
「ハク、見てくれよ! やっと師匠から銃をもらえぶひょ!?」
水辺でしゃがみ込んでいるハクに向かって走っている途中、いきなり視界が遮断された。
「ちょ、何するんだよ!?」
「ごめん手が滑って」
「どうやったら手が滑って水鉄砲を発射できるんだよ!」
「そういうスキル」
「わけがわからないよ! ……っておい、銃に水かかっただろ!」
別にそれくらい大丈夫でしょ、とふくれるハク。何やら不機嫌なようだが、特に怒らせるようなことをした覚えはない。
「……トロは最近ずっとそうだもんね、銃がどうの師匠がどうのって」
「なんだよ、いいだろ。強くなってお前を守るって約束したんだから」
「…………」
実に不満そうだ。一体何が不満なのかさっぱりわからないが不満そうだ。こちらに向かってしっかりと二丁構えている程度には不満らしい。
――約束というのは、少し前のこと。ハクの父親は有名な王党派の政治家で、ハクまで過激共和派に命を狙われることがある。だから俺が武器を扱えるようになってあらゆる敵から守るという、意外にリアルなものだった。
そして、アノマラド一強いという噂のウルリッヒ・シュペンハウアーさんに頼み込んで弟子入りしたところ、初めて持たされたマスケット銃が妙にしっくりと手に馴染んだ。パラレルワールドというものが本当に存在するのであれば、その世界の俺はきっとすごい銃の使い手なのだろうな、などと突拍子もない妄想が浮かぶほどに。そしてその瞬間、まだ曖昧だったハクのヒーローになるという夢がみるみる現実味を帯び、一気に銃の世界にのめり込んだのだった。
「そう怒らないで見ろよ、ほら。まだオートは持たせてもらえないけど、フリントロックもいいだろ?」
「…………」
表情から読み取れるのは、わからない、つまらないの二言。一から色々説明してやりたいが、そんなことを始めればあの銃口が火……もとい水を吹く。
「……バカみたい、ただの銃オタクじゃない」
が、聞き捨てならない一言が飛んできたので、さすがにカチンときた。
「なんだよ、俺はお前を守るために頑張って――」
――そう言った、まさにその時だった。
突然草むらから大柄な男が飛び出してきたかと思うと、ハクを高々と抱え上げ――
「……っ!?」
誰だ、何をするんだ、やめろ。そのどれを叫ぶこともできず立ち尽くしている間に、ハクは海へと投げられる。
――なんだ、これ。
いきなり変なのが現れて女の子を海へ投げるって、なに、なんの冗談だ。
「…………、」
いや、でも大丈夫、ハクは泳げるんだ。それにこの辺りはそんなに深くないのだから、きっとすぐに顔を出して――
――なんて、そんなのはただの都合のいい、物語によくある設定だ。
澄んだ水にみるみる赤が広がっていく。そう、ここには遺跡の瓦礫が転がっているのだ。俺にははっきりと見えた、瓦礫に叩きつけられるハクの姿が。
「さて、こんなもんかな。刺したりすんのは感覚が残って気持ちわりぃし、銃なんて結構なブツは持ってねぇし……あ、これで金が入るから買えるか?
まーとりあえずこれで、子供の事故ってことになるしな」
男は、水面に広がる赤い靄を見て満足そうに笑っていた。
すう、と体温が落ちていくのがわかる。ハクは浮いてこない、きっともう――……、耐えろ、耐えるんだ。その現実を認めた瞬間、俺は間違いなく狂ってしまう。
男はこちらを振り向くと、ふむ、と顎に手を当てた。
「さて、こいつはどうすっかねぇ。こうだろ、こうして……こっちか。
あー……どっちにしろ子供の力じゃ無理だったな。チッ、事故はキツイか」
何やらハクを投げた方向を向いて、草むらからの距離を測るような仕草をする。
――ああ、そうか。
この男はハクがこうなったのを俺のせいにして、俺も事故に見せかけて殺そうとしているんだ。
「……んで、なんで……」
なんでだよ。こんなに近くにいたんだぞ、俺は銃を持ってるんだぞ。なんでためらいもなく現れてハクを殺したんだよ、俺はなんで守れなかったんだよ、いや一瞬のことだから無理だった、こいつが出てくるのがわかっていれば守れたんだ、ハクはつい数十秒前までそこで動いてたんだよ、少し時間が戻ってくれれば助けられるんだよ、こいつを、こいつをこの銃で撃てば、こいつさえいなければハクは助か――
「ああああああああああああ!!」
助からない、ハクは助からない!こいつを殺したって助からない!時間は巻き戻らない!でも許さない、絶対に許さない、お前を殺す!!
震える手で男に銃を向け、引き金を引いた。男がよろめく。
だがそれだけだった――弾は男の頭の横をすり抜け、赤い水の中へ消えていく。
「うお! お前それ本物だったのか、あっぶねぇなぁ。
しっかし古いヤツ使ってんだな、親の趣味かなんかか? まぁそれで助かったよ」
構えたままの銃を興味深そうに眺めると、ペラペラと喋る。
……これはフリントロック、一発限りだ。弾はあるが、さっきのこの男の速さなら、きっと弾を取り出して込めている間に奪われてしまう。師匠が俺にオートを持たせておいてくれればこいつを殺せたのにと、やり場のない怒りを心の中で師匠にぶつける。
俺がますますピンチに陥ったとか、これから殺されるとか、そんなことはもうどうでも良くなっていた。ただただ悔しかった、悲しかった。守りたいものを目の前で一瞬にして失い、その仇を討つことすらできなかった――俺は命を狙われるということの恐ろしさを知らず、ハクの言う通り銃オタクになっただけで、ただ憧れのヒーローのいる都合のいい物語の中に生きているだけだったのだ。現実はこんなにも、こんなにもあっけなくて残酷だった。
そしてこれが現実ならきっと助けは来ない。俺もここで終わって、ハクと一緒に冷たい土の中で眠ることになる。
――……まあ。
天国でずっと一緒にいられるなら、それもいいかな。
「……おし、これでいくか」
ニッと男が笑う。どうやら俺の殺し方が決まったようだ。
そう、そして次の瞬間、目の前に男が迫って――
「ッ!?」
――と、頭の中で冷静にお決まりのシナリオを流してみたものの、その通りにはならなかった。
男は一歩もこちらに近付くことのないまま、豪快にその場に倒れると、ぴくりとも動かなくなった。うつ伏せになったその頭から、少しずつ汚い液体が流れ出ていく。
いつの間にか極限まで冷静になっていた俺には、その状況を理解することは容易だった。
「……師匠」
彼が手にしていたのは、ピエトロ・ベレッタM92。俺の憧れの銃だ。
ぼんやりとその黒い銃身を見つめていると、師匠は草むらから飛び出て、一直線に海に入っていった。
「何をしているんだ」
「え……?」
第三者に声をかけられたのかと思った、しかし今のは師匠の声だ。
何をしている?質問の意味がわからない。立ち尽くしていると、師匠は今にも泣き出しそうな顔で叫んだ。
「見てわからないか、その男は死んだ! 次に君がやるべきは何だ!」
こんな師匠を見たのは初めてだった――でも、次に俺がやるべきことなんて、思いつかない。
ハクが殺された、殺した男も死んだ、これでおしまいなのに。
「ベレッタ!」
何を――師匠はそんなに怒って、
「…………あ」
――ハクは。
ハクは何を怒っていたのだろう。
「……ハク……」
よろよろと海に近付く。できればこれ以上先に進みたくなかった――変わり果てた姿なんて見たくない。それはきっとハクじゃない、ハクだったものだ。
でも俺は、それも全て見届けなければならない……ということか。
――ここで『勝手に殺すな!』なんて言って飛び出てきたら、どんなに――。
目の前が霞む。師匠に抱え上げられたハクの身体は、白く、白く濁っていた。
「ベレッタ、上着を脱いでそこに敷くんだ」
「え? ……あ、はい」
呆然とした頭で何とか師匠の言葉を理解し、言われるままにする。
師匠はハクに呼びかけ、心音と脈を確認しながら岸へ上がった。どう見ても手遅れだ、予想通りの難しい顔をする。
しかし続けて、ハクを草むらに敷いた俺の上着の上に横たえ、マントから取り出した手ぬぐいで左肩を縛り、もう一枚を手に巻いて頭の後ろに添える。最後に懐中時計を取り出してそばに置くと、ハクの顎を持ち上げ――
「師匠、まさか」
「今頃気付いたのか。心臓マッサージはこの前教えただろう、君はそれを――」
「だ、ダメですっ!」
とっさに叫んでしまった。師匠の眉が動く。
俺の言いたいことはわかるはずだ、そしてそんなことを言っている場合かと怒られるに違いない。
しかし師匠は、少し考えるような表情を見せると、ハクの頭からそっと手を引き、手ぬぐいを解いて俺に渡した。
「……その方がいいかもしれないな、だが君が酸欠にならないよう気をつけろ。
いいか。後頭部と左肩からの出血が目立つ、頭を丁寧に圧迫しながらやるんだ。だが首はむやみに動かすな、あくまで今私がやったように軽く持ち上げるだけだ。
私が15で君が2だ、常に頸動脈を確認しろ」
一度だけしっかりと言うと、ハクの胸に手を添える。
――あれだけ冷え切っていた心も体も、自然と熱くなってきた。
助かる――いや、助けるんだ。どんな絶望的な状況でも諦めてはいけないんだ、絶対に――!
「トロ、そこ邪魔」
後ろから聞き慣れた声がして、はっと我に返る。
「……ごめん」
出た一言はつまらないものだった。彼女もそれが気に入らなかったらしく、俺の頭をぺしっとはたく。
「何よそれ、『こんな広い場所でここだけピンポイントで邪魔だとかとんだ言いがかりだろ!』とか言いなさいよ!」
「……言いがかりだってわかってるなら最初から言うなよ」
「あーほらほらツッコミが甘い、失格……――トロ?」
――今でも。
彼女は相変わらず俺より小さくて、すっぽりと腕の中に収まった。
「ちょ、トロ、何して……ああもうせっかくお土産持ってきたのに! 潰れる! 潰れるってば! 離せ!」
思い切り暴れるが、俺の腕は彼女の解放を許さない。今となっては、何かを――誰かを殺すための攻撃力は彼女の方が上だが、腕っ節は俺の方が遥かに強いのだ。
ハクはため息をつくと、冷たく言い放った。
「……ねえ。もうやめてくれないかな、そういうの」
どくん、と心臓が大きく揺れる。それでも俺は彼女を離さない。
「どうせあの時のこと思い出してたんでしょ。
……普段もそう。鬱陶しいのよ、いちいち伝わってくるの。私が何のためにここまで強くなったのかわかってるでしょ?」
「……ああ」
「だったらあのことを引きずるのはやめて。こっちまで疲れるから」
ハクは実にはっきりと、簡潔に物事を言う。時には平気で相手を傷つける。だが、その言葉の裏を読めないほど、今の俺は鈍感ではない。
「それはできない」
きっぱりと答える。そして怒りの言葉が返ってくる前に続けた。
「あの出来事があって、今の俺とハクがいるんだからな。俺はまだ今の自分に満足してないけど、ハクが強くなったのは良かったと思ってる。
それと勘違いするなよ、俺は別に引きずってない。ハクがさっきの俺の一連の言動から勝手にそう思っただけだ」
「な――何よそれ!」
「ただ、思い出してぼーっとしてたから上手く返せなかったんだ。そしたらちょうどお前が来て、愛おしくなったからこう、ぎゅっと」
小さく抵抗を続けていたハクの動きが止まる。体の力が抜けたのではなく余計に硬くなってしまったので、少し気になって体を離すと、彼女は自らの体をぎゅっと抱きしめて青ざめた。
「寒い、最高に寒い!」
「……なんか素の反応っぽいなそれ。傷つくなぁ……」
キスもしたのに。
そう言おうと思ったが、あの美しい海に再び血の靄が広がるのは避けたいのでやめた。
――そう。
この通り、ハクはピンピンしている。主に師匠のおかげで。
あの時師匠は、俺に銃を譲ったその機会にと、いつも話の中でしか知らないハク本人に会いに来たらしい。その道中で俺の叫びと発砲音を聞いて駆けつけると、血の広がった海と、男に銃を向ける俺の姿があったという訳だ。
あれからハクが後遺症もなく元気になれたのは――もちろん本人の生命力もあるだろうが、師匠が男を撃つ前に、一緒にいた仲間に医者を呼びに行かせていたというのが大きい。応急処置を始めて間もなく医者が到着し、その場でハクの蘇生に成功したのだ。
後に医者は俺達の処置を見事だと褒めてくれたが、正直あまり嬉しくはなかった。師匠があまりに完璧で、俺は無力で、何より最初から諦めていたことが本当に腹立たしくて。ハクが意識を取り戻したことを聞いても、それから一週間、顔を出しに行くことはなかった。
「なあ、ハク」
「なに」
「……そうめんどくさそうに返事するなよ、別に悪い話じゃない」
「ふーん」
「…………どこまでも興味なさそうだな」
「うん」
……まあいつものことだ。俺は気にしないようにしながら、勝手に話を続ける。
「あの時さ。師匠の叱咤もあって、勇気を出して病室に行ったらいきなりお前に殴られたんだよな。その怒り方が事件前と全く同じで……そこで初めて、あの時も今も、お前はずっと寂しい思いをしてたんだって気付いたんだよ」
「…………」
「俺は、お前はちょっと痛いツンデレだと思ってるから、鬱陶しいと言われようが何だろうが一生そ」
「やめて気持ち悪い」
「…………ばにいるぞ」
折れそうになる心を何とか持ちこたえさせると、言い切った。……普段は人の言うことを片っ端から否定してくるハクが一瞬でも黙ったところを見ると、寂しかったというのは間違いではないらしい。
ハクは、肺にある酸素を全部出し切ってしまったのではないかと思うほど大きなため息をつくと、おもむろに瓦礫の上に座り、持っていたポーチを開いた。
「……あの時の話をしたのは初めてだね」
…………。
………………。
……………………ん?
「今まではお互い、行動でわかってる気になって避けてきた話題な気がするし……ってあー、やっぱり割れちゃってるじゃないバカ!」
ポーチから取り出されたのは、カモミールカフェのロゴの入った袋で綺麗にラッピングされたクッキー。確かにいくつか割れてしまっているが、焼きたてなのか、おいしそうな香りが漂ってくる。
それより……それより、だ。
「……今あんたが思ってること言ってあげようか。『うわっ、ハクがまともに喋った!』はい当たり」
「うん当たり」
ハクは乱暴にラッピングのリボンを解いて乱暴にクッキーを取り出すと、乱暴に口に放り込み乱暴に咀嚼した。
「後で思う存分殴るとして、続き。
あのことに関しては、あんたは何も悪くないし私も悪くない。だからお互い、負い目を感じるのはもうやめにしよ」
……まだ信じられないが現実だ。ハクがまともなことを言っている。
「今の心の声もよく聞こえたから、後で思う存分蹴るとして、続き。
だからあんたが何を言おうが勝手だけど、そういう理由で私のそばにいるのはやめて。あんたはなんだかんだ抜けきれてないよ、いつだって必要もないのに無駄に体張りすぎだもん」
……そうだな、考えてみればそうかもしれない。バカにしているようで実はよく見てたんだな、俺のこと。
こうして話してくれたことも、俺のことをわかってくれていたことも嬉しくて、少しくすぐったくて、思わず笑みがこぼれた。
「ああ、わかった……ありがとう、ハクスイ」
「ん」
よろしい、と頷くハク。いい所でフルネームを出したのに微塵も反応しない、それがハクオリティ。
ハクは持っていたクッキーを俺の口に押し込むと、手を垂直に重ねて水に浸けた。ぴゅっ、とその隙間から水が迸る。
ちなみに押し込まれたクッキーは袋ごとだ、それもハクオリティ。
「そうそう。あの年になっても私が水鉄砲で遊んでた理由、今ならわかるよね?」
「…………」
――あれ、なんだか。
この景色も、ハクの姿も、よく見えない。
「……ハク、見せたいものがあるんだ」
「涙目で何言ってんの」
「うるさい、格好つかないのはわかってるよ」
ホルスターから取り出したのは、黒くずっしりと重いオート拳銃。そう、今日はこれを受け取りに行ってきたのだ。
そしてこれは――
「M9?」
「なっ……!?」
銃の名前を言う=俺の名前を呼ぶという式が一瞬にして崩れ去った。
なんで、という顔をする俺に、ハクはふふんと鼻を鳴らしてみせる。
「水鉄砲だけだと思われちゃ困るわね~、私を舐めない方がいいよ?」
「いや舐めたことなんて一度もないけど……はは、まさか……」
まいったな。
もしかするとハクは、既に銃を扱える領域にまで達しているのかもしれない。
「……まあ、とにかくだ」
銃をくるりと回してみせると、あの血の靄が揺らめいていた場所に向けた。
「……ん。これで終わりだね、ベレッタ」
「――!」
ハクがこちらに歩み寄り、銃に手を添える。そして――
「『 』」
唇だけを小さく、銃声の擬音の形に動かして。
5年の間、それぞれの道で様々なものと戦ってきた俺達は、ようやく力を合わせて「ここ」に巣食っていたボスを倒したのだった。
「まったく君達は……雰囲気で撃ってしまわないかハラハラしたぞ」
またしてもたまたま通りかかり、一部始終を覗き見……もとい見守っていたらしい師匠が、ハクから受け取ったクッキーをかじりながら言う。
「そんなことはしませんよ。俺がこれを撃つのはモンスターと……人を殺す時だけです」
「…………」
俺の言葉に、師匠の顔が少し曇る。
師匠は師匠で、あの事件のことで――正確にはそのずっと前から色々と悩んでいたらしい。俺とハクが、そして同じような子達が、どうしたら心を壊すことなく生きていけるだろうかと。事件後は、ハクを襲ったのがやはり過激共和派の雇ったゴロツキだということが発覚し、更に頭を抱えていた。
あれから国は一触即発状態。もしハクが死んでいたら内戦になっていたかもしれない。
「……君にハクさんを救い出せと伝えたあの時、これ以上過酷な現実を押し付けたくないと、後は全て自分がやればいいと、胸が締めつけられる思いだった。
でも助かる見込みがゼロでない以上、君の師としてやるべきこともやらなければならないと思った」
――わかっている。
俺がつまらないと言っていた訓練にも全て意味があり、銃を振り回すだけがヒーローではないのだということを、あの時の師匠を見て知ったのだ。
しかし、師匠としては葛藤の連続だったに違いない。俺達の生きる環境に銃が必要だとしても、それは命を傷つけ、奪うものだから。
「大丈夫ですよ、師匠。俺はもう何も怖くないし、ハクと一緒なら何があっても乗り越えられます」
「……ああ、わかっているよ。だからお前にそれを渡した」
腰に下げた俺の分身を見て、穏やかに微笑む師匠。
ハクは先程から、クッキーにぱくつきながら黙って俺達の話を聞いていたが、一段落したとわかると師匠をつついた。
そして僅かに頬を染めると、
「あの……ごめんなさい、ウルリッヒさん。私達、今日はこれで帰ります。
今夜はその、ベレッタと――」
――…………え。
ええええ?なんだなんだ一体なんだ!?
待て待て、師匠まで赤くなってるけどまさか、まさかそういうことなのか!?
「……そうか、邪魔したな。では私も戻ろう」
師匠は両側に座っている俺達の背中をぽんぽんと叩くと、立ち上がった。
「ベレッタ、明日の訓練は休みだ。今夜はゆっくりするといい」
満面の笑顔で去っていくし。……本当に待てよ、まだ心の準備が。
既に暴れ出している心臓を押さえていると、ハクは俺の手を取り、にっこりと笑った。
「さて、トロ。もちろん覚えてるよね? さっきのこと」
「……え?」
頭の中で大急ぎで記憶を巻き戻してみると、それはある一点でぴたりと止まり、ゆっくりと再生された。
「『後で思う存分殴るとして』」
「『後で思う存分蹴るとして』」
――ああ、そうか。
ハクは早く俺をぶちのめしたくてしょうがなかったんだな……まったく根に持つタイプはこれだから……はは、は……。
翌々日。
生気のない俺の姿を見て、何も知らない師匠が「随分熱かったようだな」と笑いながら赤飯を差し出してきて死にたくなった。
――だが。
俺とハクの中に確かなものができて、繋がることができたのは間違いない。それはとても温かくて、こんなメチャクチャな日常すらも穏やかに包み込んでくれる。……絆、と言うのだろうか。
俺達はこれからもこんな調子で、一緒に時を重ねて行くのだろう。
サシャとバインドに出会い、そこに新たな絆が生まれるのは、もう少し後の話だ。
以下はおまけの続き、師匠いぢりです。下ネタ超注意!
同じように茶碗に箸を差し込みながらにこにこしていた師匠だったが、
「……激しかったですよ、もうあの場で何回も何回も」
無表情で放たれたその言葉に吹き出しそうになる。
「っ……まさか、あのまま海の谷で……!?」
「ええ。ハクの奴、よっぽど我慢できなかったんでしょうね」
「……ベレッタ。一応訊くが、誰にも見られていないだろうな?」
「もちろん見られてましたよ、道行く人にジロジロと。『やーねー』とか言われてましたよ」
「馬鹿……っ! それは公然猥褻罪と言ってだな……!」
それまで赤かった師匠の顔が一気に青くなった。
しかしここからだ、ここからが俺のターン!
「猥褻? 俺がいつ、猥褻な行為をしたと言いました?」
「……え」
「俺はあの日、ハクを怒らせるようなことを言って……というか思って、リンチを宣告されてたんです。あの後それが執行されたんですが……師匠、もしかして」
「…………」
「俺とハクが青か」
「か、っん違いだ! ……すまなかった、私はてっきり……」
「へぇ、それで赤飯ですか。一体どうしたんだろうと思いました」
「…………すまない」
小さくなる師匠。
まあ、俺も最初は見事に勘違いしたので人のことは言えないのだが。
「……君達も年頃だ。何より、あのハクさんの言い方だとそう思っても仕方ないだろう」
ごにょごにょともっともな言い訳をする。
「それがハクなんですよ師匠、恐ろしい奴です」
「ああ、そうだったな……実際に会うと君の話とは雰囲気が違うものだから、毎回騙される」
「それがハクなんですよ師匠、大事なことなので二回言いました」
師弟共にティチエルを愛するのが公式なら(違う)、師弟共にティチエルにいじられる――そんな世界があってもいいじゃない!
おちまい\(^o^)/
長い間ここでもハクスイと名乗っていたせいで、作中でハクだとかハクスイだとか書くと、未だ自分のことのようで非常に微妙な気分になります。
ハクスイは私じゃなくてキャラなんだ!別世界のティチエルなんだ!そして元々はオリキャラの名前なんだキェー!!
ちなみにばいんどをバインドと書いていますが、今後はそう書くことにしました。
由来はもちろんバインドストーンですが、バインドって別に変な名前じゃないんだよ!Bindだぜ、発音はバインドじゃなくてバインドなんだぜ!という変な強調の意味を込めて。
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